着物を通して素敵に年を重ねていくお手伝い – 

青山 ゑり華

加賀友禅作家 志田弘子さんを訪ねて

志田さんは石川県で生まれ育ち、今も能登で活動なさっています。能登の自然の風景や、子供たちの愛くるしい表情や仕草を丁寧に描いた作品は、見ている私たちを優しい気持ちにさせてくれます。

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                 能登のご自宅 お庭の枝垂れ桜が見事です

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彫刻や漆工芸などをなさるご家族と「じゃり道工房」を開き、能登の豊かな自然に囲まれてのびのびと創作活動をなさっています。 

工房では志田さんの作品や図案やデッサンなどをたくさん拝見させていただきました。

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志田さんに友禅作家に至るまでの経歴や作品作りに対する想いを語っていただきました。(黒:志田さん 青:花岡)

?初めに、志田さんが友禅師になろうと思ったきっかけをお聞かせください。

学生時代、金沢大学で日本画を専攻していて、三年の時に友禅の講習会がありました。加賀友禅師の梶山伸さんや藤村加泉さんなどが講師としておいでて、まとめ役が寺西一紘さんでした。主人が同じ日本画専攻にいて、いつかは一緒になりたいと思っていて。
二人とも日本画だと食べていけないだろうなと思っていましたが、とにかく絵が好きで、絵から離れないでいられる仕事は何だろうかと考えたのです。
その時に寺西さんの彩筆庵という工房で募集があり、そこに入りました。
弟子入りというよりも、自分でやれることを少しずつ考えながら、講師の方々に教えてもらいながら出来るのが良かったです。
3年後、主人の仕事の関係で能登に来たので、後は全部自己流です。習えば簡単なことでも、よく分からないことばかりで、いっぱい、いっぱい失敗しながらでしたが、好きだからここまで続けられました。

 ご主人と一緒になるために選んだ道といえるのですね(笑)。お弟子さんもいませんね。これではなかなか枚数上らないでしょう。

そうなんです。一人でやっているので、手の込んだ訪問着なら月に一枚作るのがやっとで、問屋さんにもこんなペースじゃだめだと言われています。

 十年ぐらい前になりますか、初めての個展をゑり華でしましたね。

はい、ある時ゑり華の会長さんが社長さんと一緒に訪ねてきてくれて、「うちで作品展をして欲しい」と言われ、本当にびっくりしました。そして会長さんに「このぐらいの枚数作るのにどのぐらいかかりますか」と言われて、正直に「二年ほどかかる」と答えたら、一瞬会長さんが唖然としたのが分かったんですよ。でも「分かったよ、ゆっくりあんたのペースでやってみなさい」と言ってくださり、はじめて作品展をすることができたんです。

 当時私も頻繁に金沢に帰っていましたが、志田さんとよくお会いましたね。

はい、本当に勉強になりました。図案や色差しした物を会長に見せに行っていたのですが、駄目な時には「こんなんじゃ駄目だ!」と怒られて。でも、いいのができると、顔をニコニコにして、「お前、いいなぁ、いいもの描いたなぁ」って褒めてくれて、それを聞くために通っていました。今日は怖い顔やろか、優しい顔やろかと思って、ドキドキしながら行ったんですよ。

 志田さんの作品は、花と人物の2つに分かれますがどのように使い分けているのですか?

日本画の時は人物ばかり描いていました。友禅の世界に入って、由水十久先生という童子模様の偉大な先生がいらっしゃることを知り、弟子でもない私が描いたらいけないんだなぁと思っていました。
でも私は子供が4人いて、本当に子供って何でこんなに柔らかい、やすらげる、可愛いものだろうって日々思っていましたし、4人いたけど苦労とかなくて、4人いて良かったなぁって思いながら子育てしてきて・・・。
由水先生は男性の目線で童の図案を描かれたけど、私は女性、母親の目で見て、ふっとやすらげるその子供の絵、いとおしい柔らかさを描きたいなぁって。その方向で行くのなら私描いても良いのかなぁって。

友禅の技術を使いながら、布の優しさと、小さな童のほっぺた、野原の花、身近に見てほっとする、傍らに置いてほっとする物、愛おしくなる物を描きたいと思ったのです。

子供と自然どちらも大好きだし、私の中では区切りが無く同質の物で、どちらも求めている人がいる。格好良くなっちゃうけど、人と人の気持ちが通じ合える事ってなかなか無いけれど、自分が悲しいとき、嬉しいときに表したい物を表して、誰かがそれを見て、私と同じ思いを感じる。傍にあることが嬉しいよって言ってくれたら私も嬉しいし、自分の仕事を通じてつながれるって素敵だなぁって思うのです。

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                 志田さんの図案

 それってもの創りする人にとって最高の喜びですよね、うらやましいと思います。我々の仕事は、その思いをお客様にお伝えすることですよね。実際にもの創りをするときに、気をつけていることはどんなことでしょう。

自分で思いを表現したい、自分が心打たれた物を描きたくて描きたくてしょうがないし、描いているときは本当に幸せです。でもそれだけではなくて、着物は着る人をきれいにするのが大切だと思うのです。

昔、工芸会の集まりで、ある方に「工芸会に出すときは、何でもいいから全部埋め尽くしなさい。そして、着物にならなくてもいいから、棄てるつもりでやりなさい」と言われました。それを聞いたときに、私の着物に対する思いと違うなぁって思って。着る人をきれいにして、その人が「この着物好き」ってほおずり出来るものを作りたいって。そう言ったら大笑いされました。その方の作品は、柄で埋め尽くされているんですけど、そんなんじゃ着る人いないでしょうって言ったら、「探せば1人ぐらい居るよ」って言われて。でも私、能登の田舎じゃその1人探せないって(笑)

 一口に着る人をきれいにと言っても簡単ではありませんよね。

本当に大変です。個性を出すために奇抜な物を描いたり、童の柄でも童が主張し過ぎると着て着心地が悪かったりします。柄も地色も挿しも抵抗無く、着る人が楽でいられる物が出来たらいいと思っています。

 志田さんの色使いは、間違いなく誰のまねもしていない、志田さんの物ですね。

色々な色を使うのが楽しくて。それこそ私が、1人の先生に習ったのではなくて、自分のやりたいことを自由に出来たからなんです。
絵を見たり、絵本を見たりして「こんな不思議な色使いがあるんだ」と思ったら試してみました。遠回りしたけど、いろんなことを自由に出来たことは、1人でやってきて良かったことかもしれないですね。

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                   志田さんの作品

 志田さんの作品には﨟(ロウ)の技法を使うものがありますね、加賀ではあまり使われませんが。

以前ある工芸の作品を見たときにその表現に魅せられて、わたしの作品にも奥行きが出せたらいいなぁって思ったのですが、糊糸目ではそこまでの表現はできない、かなわないなぁと思って挑戦してみました。

 童や草花のくっきりした輪郭の周りに﨟でたたきを入れると確かに奥行きが生まれますね。

試してみたくて色々やってみました。型紙を自分で彫って型糊を置いたり・・・。糊糸目と﨟を一枚の作品の中で使うのは大変でしたが、私の糸目を手伝ってくれるお友達が、もう十何年やってくれていて、私の無理を聞いてくれているんです。その人達と一緒に「こんな能登の田舎で、遠回りばかりだけど、とにかく手抜きしないでやりたいね」って言いながらやっているんですよ。

 今日は長時間にわたってありがとうございました。

〈通常作家さんとお話しするときには「先生」とお呼びするのですが、志田さんはその度に、「志田さん!」と言い直しを求められます。
先生と呼ばれることになれてしまった作家さんが多い中で、今回志田さんのもの創りへの強いポリシーを感じました。〉

 

加賀友禅作家 志田弘子先生

1952年 石川県能美郡川北村に生まれる

1975年 金沢美術工芸大学 日本画科 卒業

 同年 志田哲夫と結婚

    その後、千尋 真樹子 穣太郎 耕二郎 4人の子供たちを授かる

1987年 加賀友禅作家として独立

1994年 石川県の伝統工芸展初入選 以後入選を重ねる

2004年 能登中島町文化ホールにて個展

2008年 名古屋名鉄デパート美術サロンにて等 個展を重ねる

2009年 NHK「美の壺」収録

    現在に至る